『脈経』王叔和譔 (巻第二)④ ~鍼灸院必携・脈診の原典~

平 奇経八脈の病 第四

脈に奇経八脈有るとは何の謂ぞや。
然り、陽維陰維有り、陽蹻陰蹻有り、衝有り、督有り、任有り、帯脈有り。
凡そ此の八脈は皆経にかかわらず。故に奇経八脈と曰う。

経十二有り、絡十五有り、凡て二十七気、相随て上下す。何ぞ独り経に拘わらずや。
然り、聖人溝渠を設け図りて水道を通利して以て不虞に備う。
天雨降下すれば溝渠溢れ満ちん。霶霈妄行す。此の時に当って、聖人復た図ること能わざるなり。此れ絡脈溢して諸経に流れ、復た拘ること能わざるなり。

奇経八脈は既に十二経に拘わらずんば、皆何くに起り何くに繫がれるや。
然り、陽維は諸陽の会に起り、陰維は諸陰の交に起る。
陽維、陰維は身を維絡して、溢畜して諸経に環流溉灌すること能わざる者なり。
陽蹻は跟中に起り、外踝を循りて上り行きて風池に入る。
陰蹻も亦跟中に起り、内踝を循りて上り行きて咽喉に至りて衝脈を交貫す。
衝脈は関元に起り、腹裏を循りて直に上りて咽喉の中に至る。
督脈は下極の輸に起り、脊裏に並びて背を循り上りて風府に至る。
衝脈は陰脈の海なり。
督脈は陽脈の海なり。
任脈は胞門子戸に起り、臍を夾みて上りて行きて胸中に至る。
帯脈は季肋に起りて身を廻ること一周す。
此の八の者、皆十二経に繫がらず、故に奇経八脈と曰う者なり。

奇経の病を為すこといかん。
然り、陽維は陽をつなぎ、陰維は陰を維ぐ。
陰陽、相維ぐこと能わざれば、悵然として志を失っし、容容として自ら収持すること能わず。
陽維の病を為すこと寒熱を苦しむ。
陰維の病を為すこと心痛を苦しむ。
陰蹻の病を為すこと陽緩して陰急なり。
陽蹻の病を為すこと陰緩して陽急なり。
衝の病を為すこと逆気して裏急なり。
督の病を為すこと脊強ばりて厥す。
任の病を為すこと其の内苦結して男子は七疝と為り女子は瘕聚と為る。
帯の病を為すこと腹満し腰容容として水中に坐する状の若しなることを苦しむ。
此れ奇経八脈の病を為すなり。

診得するに、陽維の脈浮なる者は蹔起は目眩す。陽の盛実なり。肩息、洒洒としてひゆるが如しことを苦しむ。
診得するに、陰維の脈沈大にして実なる者は、胸中痛み、脅下支満、心痛を苦しむ。
診得するに、陰維貫珠の如くなる者は、男子は両脅実して腰中痛み、女子は陰中瘡有る状の如きに痛む。
診得するに、帯脈は左右臍腹をめぐる。腰脊痛みて陰股を衝く。

両手の脈、之を浮べて倶に陽有り、之を沈めて倶に陰有り。陰陽皆実盛なる者は此れ衝督の脈たり。
衝督の脈は十二経の道路なり。衝督事を用いれば、則ち十二経寸口に復朝せず。
其の人皆、恍惚、狂癡を苦しむ。不者しからずんば、必ず当に由予じめ両心に有るべし。

両手の陽脈浮きて細微綿綿として知るべからず、倶に陰脈有りて亦細にして復た綿綿たり。此れ陰蹻陽蹻の脈たり。
此の家、かつて鬼魅風死を病みて、恍惚を苦しみ、亡人禍を為すこと有らん。
診得するに、陽蹻の病は拘急、陰蹻の病は緩し。

尺寸倶に浮めて直に上り、直に下る。此れを督脈と為す。
腰背強痛して俛仰することを得ず。
大人は癲を病み、小人は風癇を疾む。

脈来ること中央浮、直に上下し、痛む者は督脈なり。
動ずれば腰背膝寒ゆるを苦しむ。大人は癲、小児は癇なり。頂上に三丸灸す。正に頂上に当る。

尺寸の脈倶に牢、直に上り直に下る。此を衝脈と為す。胸中に寒疝有り。
脈来ること中央堅実、径関に至る者は衝脈なり。
動ずれば少腹痛、上りて心を搶くを苦しむ。
瘕疝有りて孕を絶して溺を遺失し、脅支満煩す。

横て寸口の辺に丸丸たる。此を任脈と為す。
腹中に気有ることを苦しむ。指上で心を搶く如くにして、俛仰することを得ずして拘急す。
脈来ること緊細実長関に至る者は任脈なり。
動ずれば少腹臍下をめぐり横骨陰中に引きて切痛することを苦しむ。臍下三寸を取る。


【メモ】
前半は『難経』の二十七難~二十九難を再構成して一部変更したものです。
後半は奇経の脈診方法ですね。
二巻はこれで終了。

原文

平竒經八脉病第四
脉有竒經八脉者何謂也然有陽維隂維有陽蹻隂
蹻有衝有督有任有帶之脉凡此八脉者皆不拘於
經故曰竒經八脉也經有十二絡有十五凡二十七
氣相隨上下何獨不拘於經也然聖人圖設溝渠通
利水道以備不虞天雨降下溝渠溢滿霶霈妄行當
此之時聖人不能復圖也此絡脉流溢諸經不能復
拘也
竒經八脉者既不拘於十二經皆何起何繫也然陽
維者起於諸陽之會隂維者起於諸隂之交陽維隂
維者維絡于身溢畜不能環流溉灌諸經者也陽蹻
者起於跟中循外踝而上行入風池隂蹻者亦起於
跟中循内踝而上行至咽喉交貫衝脉衝脉者起於
關元循腹裏直上至咽喉中[1]
督脉者起於下極之輸並於脊裏循背上至
風府衝脉者隂脉之海也督脉者陽脉之海也任脉
者起於胞門子戸夾臍上行至胷中[2]
帶脉者起於季肋[3]廻身一周
此八者皆不繫於十二經故曰竒經八脉者也竒經
之爲病何如然陽維維於陽隂維維於隂隂陽不能
相維悵然失志容容[4]不能自収持[5]
陽維爲病苦寒熱隂維爲
病苦心痛[6]隂蹻爲病
陽緩而隂急[7]陽蹻爲病
隂緩而陽急[8]衝之爲
病逆氣而裏急[9]督之爲病脊
彊而厥[10]任之爲病其内苦結男子
爲七疝女子爲瘕聚[11]帶之爲
病苦腹滿腰容容[12]若坐水中狀[13]
此竒經八脉之爲病也
診得陽維脉浮者蹔起目眩陽盛實苦肩息洒洒如

診得隂維脉沈大而實者苦胷中痛脅下支滿心痛
診得隂維如貫珠者男子兩脅實腰中痛女子隂中
痛如有瘡狀
診得帶脉左右遶臍腹腰脊痛衝隂股也
兩手脉浮之俱有陽沈之俱有隂隂陽皆實盛者此
爲衝督之脉也衝督之脉者十二經之道路也衝督
用事則十二經不復朝於寸口其人皆苦恍惚狂癡
不者必當由豫有兩心也兩手陽脉浮而細微綿綿
不可知俱有隂脉亦復細綿綿此爲隂蹻陽蹻之脉
也此家曾有病鬼魅風死苦恍惚亡人爲禍也
診得陽蹻病拘急隂蹻病緩
尺寸俱浮直上直下此爲督脉腰背彊痛不得俛仰
大人癲病小人風癇疾
脉來中央浮直上下痛者督脉也動苦腰背膝寒大
人癲小兒癇也灸頂上三圓正當頂上
尺寸脉俱牢[14]直上直下此爲衝脉胷中有寒疝也
脉來中央堅實徑至關者衝脉也動苦少腹痛上搶
心有瘕疝絶孕遺失溺脅支滿煩也橫寸口邊丸丸
此爲任脉苦腹中有氣如指上搶心不得俛仰拘急
脉來緊細實長至關者任脉也動苦少腹繞臍下引
橫骨隂中切痛取臍下三寸

注釈
[1] ^ : 一云衝脉者起於氣衝並陽明之經夾臍上行至胷中而散也
[2] ^ : 一云任脉者起於中極之下以上毛際循腹裏上關元至喉咽
[3] ^ : 難經作季脅
[4] ^ : 難經作溶溶
[5] ^ : 悵然者其人驚即維脉緩緩即令身不能自収持即失志善忘恍惚也
[6] ^ : 陽維爲衛衛爲寒熱隂維爲榮榮爲血血者主心故心痛也
[7] ^ : 隂蹻在内踝病即其脉急當從内踝以上急外踝以上緩
[8] ^ : 陽蹻在外踝病即其脉急其人當從外踝以上急内踝以上緩
[9] ^ : 衝脉從關元至喉咽故其爲病逆氣而裏急
[10] ^ : 督脉在背病即其脉急故令脊彊也
[11] ^ : 任脉起於胞門子戸故其病結爲七疝瘕聚
[12] ^ : 難經作溶溶
[13] ^ : 帶脉者廻帶人之身體病即其脉緩故令腰容容也
[14] ^ : 一作芤

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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