『脈経』王叔和譔 (巻第三)③ ~鍼灸院必携・脈診の原典~

肝胆部 第一 (3/3)

黄帝問うて曰く、春の脈絃の如し、何如して絃なるや。
岐伯曰く、春の脈肝なり、東方木なり、万物の始めて生ずる所以なり。故に其の気、来ること濡弱軽虚にして滑、端直にして以って長たり、故に絃と曰う。
此に反する者は病む。
黄帝曰く、何如して反するや。
岐伯曰く、其の気、来ること実にして強、此れを太過と謂う。病、外に在り。
其の気、来ること実ならずして微、此れを不及と謂う。病、中に在り。
黄帝曰く、春の脈、太過なると不及なると、其の病ともにいかん。
岐伯曰く、太過なるときは人をして善く忘れ、忽忽として眩冒して癲疾せしむ。
不及なるときは人をして胸脅痛みて背下に引き、両脇胠満せしむ。
黄帝曰く、善し。

肝の脈来ること濡弱招招として竿の末梢を掲るが如きなるを平と曰う。
春は胃の気を以って本と為す。
肝の脈来ること盈実にして滑、長竿を循るが如きなるを肝の病と曰う。
肝の脈来ること急にしてますますかたく、新たに張れる弓の絃の如きなるを肝の死と曰う。

真肝の脈至ること中外急にして刀刃を循るが如きにして責責然たり。琴瑟の絃を按ずるが如し。色青白にしてつやあらず。毛折れて乃ち死す。

春は胃、微絃を平と曰う。絃多くして胃少きを肝病と曰う。
但、絃にして胃無きを死と曰う。
胃有りて毛なるを、秋に病むと曰う。毛甚しきを今病むと曰う。

肝は血を蔵して、血は魂をやどす。

悲哀中に動ずるときは魂を傷り、魂を傷るときは狂妄して精あらず。敢えて人に正当せず。陰縮みて筋攣し、両脇の骨挙がらず、毛悴れて色夭して、秋に死す。

春は肝木王す。其の脈、絃細にして長、名づけて平脈と曰う。
反して浮濇にして短を得る者は、是れ肺の肝に乗じ、金の木を克するなり。賊邪、大逆と為す。十死治せず。
反して洪大にして散を得る者は、是れ心の肝に乗じ、子の母を扶くるなり。実邪と為す。病と雖ども自ら愈ゆ。
反して沈濡にして滑を得る者は、是れ腎の肝に乗じ、母の子に帰するなり。虚邪と為す。病と雖ども治し易し。
反して大にして緩を得る者は、是れ脾の肝に乗じ、土の木をしのぐなり。微邪と為す。病と雖ども即ちゆ。
肝の脈来ること濯濯として竿に倚るが如く、琴瑟の絃の如く、再至を平と曰う。
三至を離経と曰い病む。四至は脱精、五至は死、六至は命尽く。足の厥陰の脈なり。

肝の脈、急甚だしきは悪言を為す。
微かに急は肥気を為し、脅下に在りて覆杯の若し。
緩なること甚だしきは善く嘔す。微かに緩を水瘕痺と為す。
大なること甚だしきは内癰と為す。善く嘔衂す。微かに大なるは肝痺と為す。縮み、咳して少腹に引く。
小なること甚だしきは多飲と為す。微かに小なるは消癉と為す。
滑なること甚だしきは頹疝と為す。微かに滑なるは遺溺と為す。
濇なること甚だしきは淡飲と為す。微かに濇なるは瘈瘲攣筋と為す。

足の厥陰の気絶するときは筋縮みて卵と舌とを引く。
厥陰は肝の脈なり。
肝は筋の合なり。
筋は陰器に聚りて脈舌本を絡う。
故に脈営ならざるときは筋縮み急なり。筋縮み急なるときは舌と卵と引く。
故に唇青く、舌巻き、卵縮むときは筋先ず死す。
庚に篤くして辛に死す。金は木も勝つなり。

肝の死蔵、之を浮べば脈弱し、之を按ぜば中に索の来るべからずが如し、或は曲りて蛇の行くが如きなる者は死す。

 右、素問、鍼経、張仲景


【メモ】
『素問』平人気象論篇 第十八
『素問』玉機真蔵論篇 第十九
『霊枢』邪気蔵腑病形篇 第四
『霊枢』本神篇 第八
『霊枢』経脉篇 第十
などから再編成しているみたいですね。

原文

肝膽部第一 (3/3)

黃帝問曰春脉如絃何如而絃岐伯曰春脉肝也東
方木也萬物之所以始生也故其氣來濡弱輕虚而
滑端直以長故曰絃反此者病黃帝曰何如而反岐
伯曰其氣來實而強此謂太過病在外其氣來不實
而微此謂不及病在中黃帝曰春脉太過與不及其
病皆何如岐伯曰太過則令人善忘[1]忽忽眩冒
而癲疾不及則令人胷脅痛引背下則兩脇胠滿黃
帝曰善
肝脉來濡弱招招如揭竿末梢曰平[2]
春以胃氣爲本肝脉來盈實而滑如循長竿
曰肝病肝脉來急而益勁如新張弓絃曰肝死
真肝脉至中外急如循刀刃責責然[3]如按琴
瑟絃色青白不澤毛折乃死
春胃微絃曰平絃多胃少曰肝病但絃無胃曰死有
胃而毛曰秋病毛甚曰今病
肝藏血血舍魂悲哀動中則傷魂魂傷則狂妄不精
不敢正當人[4]隂縮而筋攣兩
脇骨不舉毛悴色夭死于秋
春肝木王其脉絃細而長名曰平脉也反得浮濇而
短者[5]是肺之乗肝金之刻木爲賊邪大逆
十死不治[6]反得洪大而散者[7]
是心之乗肝子之扶母爲實邪雖病自愈反得沈濡
而滑者是腎之乗肝母之歸子爲虚邪雖病易治反
得大而緩者是脾之乗肝土之陵木爲微邪雖病即
差肝脉來濯濯如倚竿如琴瑟之絃再至曰平三至
曰離經病四至脫精五至死六至命盡足厥隂脉也
肝脉急甚爲惡言微急爲肥氣在脅下若覆杯緩甚
爲善嘔微緩爲水瘕痺大甚爲内癰善嘔衂微大爲
肝痺縮欬引少腹小甚爲多飲微小爲消癉滑甚爲
頹疝微滑爲遺溺濇甚爲淡飲微濇爲瘈瘲攣筋
足厥隂氣絶則筋縮引卵與舌厥隂者肝脉也肝者
筋之合也筋者聚於隂器而脉絡於舌本故脉弗營
則筋縮急筋縮急則引舌與卵故唇青舌卷卵縮則
筋先死庚篤辛死金勝木也
肝死藏浮之脉弱按之中如索不來或曲如蛇行者死
    右素問鍼經張仲景

注釈
[1] ^ : 忘當作怒
[2] ^ : 巢源云綽綽如按琴瑟之絃如揭長竿曰平
[3] ^ : 巢源云賾賾然
[4] ^ : 不精不敢正當人一作其精不守令人隂縮
[5] ^ : 千金云微澀而短
[6] ^ : 一本云日月年數至三忌庚辛
[7] ^ : 千金云浮大而洪

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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