『脈経』王叔和譔 (巻第三)⑥ ~鍼灸院必携・脈診の原典~

黄帝問うて曰く、夏の脈鉤の如し、何如して鉤なるや。
岐伯曰く、夏の脈心なり、南方火なり、万物の盛長する所以なり。故に其の気、来ること盛にして去ること衰ふ。故に鉤と曰う。
此に反する者は病む。
黄帝曰く、何如して反するや。
岐伯曰く、其の気、来ること盛にして去ることも亦盛なる。此れを太過と謂う。病、外に在り。
其の来ること盛ならずして去ること反って盛なる。此を不及と謂い。病、中に在り。
黄帝曰く、夏の脈の太過なると不及なると、其の病皆にいかん。
岐伯曰く、太過なるときは人をして身熱して膚痛み、浸淫を為さしむ。
不及なるときは人をして煩心し、上は咳唾をあらわし、下は気泄を為さしむ。
帝曰く、善し。

心の脈来ること累累として連珠の如く、琅玕循るが如きなるを平と曰う。
夏は胃気を以って本と為す。
心の脈来ること喘喘として連属して、其の中微曲なるを心病と曰う。
心の脈来ること前曲り、後居して、帯鉤を操るが如きなるを、心死と曰う。

真心の脈至ること堅してつ。薏苡子を循るが如きにして、累累然たり、其の色赤黒にしてつやあらず。毛折れて乃ち死す。

夏は胃、微鉤を平と曰う。鉤多くして胃少なきを心病と曰う。
但、鉤にして胃無きを死と曰う。
胃有りて石なるを、冬に病むと曰う。石甚しきを今病むと曰う。

心は脈を蔵して、脈は神を舎す。

怵惕思慮するときは神を傷り、神を傷るときは恐懼自失し、破㬷脱肉、毛悴れて色夭して、冬に死す。

夏は心火王す。其の脈、洪大にして散、名づけて平脈と曰う。
反して沈濡にして滑を得る者は、是れ腎の心に乗じ,水の火を克するなり。賊邪、大逆と為す。十死治せず。
反して大にして緩を得る者は、是れ脾の心に乗じ、子の母を扶くるなり。実邪と為す。病と雖ども自ら愈ゆ。
反して絃細にして長を得る者は、是れ肝の心に乗じ、母の子に帰するなり。虚邪と為す。病と雖ども治し易し。
反して浮濇にして短を得る者は、是れ肺の心に乗じ、金の火を陵ぐなり。微邪と為す。病と雖ども即ちゆ。
心の脈来ること累累として貫珠の滑利なるがの如し。再至を平と曰う。
三至を離経と曰い病む。四至は脱精、五至は死、六至は命尽く。手の少陰の脈なり。

心の脈、急甚だしきは瘈瘲を為す。
微かに急は、心痛背に引き、食下らずと為す。
緩なること甚だしきは狂笑と為す。微かに緩を伏梁、心下に在りて上下に行き、時に唾血すと為す。
大なること甚だしきは喉介を為す。微かに大なるは心痺背に引き善く涙出ると為す。
小なること甚だしきは善く噦すと為す。微かに小なるは消癉と為す。
滑なること甚だしきは善く渇すと為す。微かに滑なるは心疝臍に引き、少腹鳴と為す。
濇なること甚だしきは瘖と為す。微かに濇なるは血溢、維厥、耳鳴、癲疾と為す。

手の少陰の気絶するときは脈通ぜず。
少陰は心の脈なり。心は脈の合なり。脈通ぜざるときは血流れず、血流れざるときは髪色沢あらず、故に其の面黒くして漆柴の如き者は血先ず死す。
壬に篤くして、癸に死す。水は火に勝つなり。
心の死蔵、之を浮べて脈実して豆麻の手を撃つが如く、之を按ずれば益ます躁疾なる者は死す。

 右、素問、鍼経、張仲景


【メモ】
『素問』平人気象論篇 第十八
『素問』玉機真蔵論篇 第十九
『霊枢』邪気蔵腑病形篇 第四
『霊枢』本神篇 第八
『霊枢』経脉篇 第十
などから再編成しているみたいですね。

原文

心小腸部第二 (3/3)

黃帝問曰夏脉如鉤何如而鉤岐伯曰夏脉心也南
方火也萬物之所以盛長也故其氣來盛去衰故曰
鉤反此者病黃帝曰何如而反岐伯曰其氣來盛去
亦盛此謂太過病在外其來不盛去反盛此謂不及
病在中黃帝曰夏脉太過與不及其病皆何如岐伯
曰太過則令人身熱而膚痛爲浸淫不及則令人煩
心上見欬唾下爲氣泄帝曰善
心脉來累累如連珠如循琅玕曰平夏以胃氣爲本
心脉來喘喘[1]連屬其中微曲曰心病心脉來
前曲後居如操帶鉤曰心死
真心脉至堅而搏如循薏苡子累累然其色赤黒不
澤毛折乃死
夏胃微鉤曰平鉤多胃少曰心病但鉤無胃曰死胃
而有石曰冬病石甚曰今病
心藏脉脉舍神怵惕思慮則傷神神傷則恐懼自失
破㬷脫肉毛悴色夭死于冬
夏心火王其脉洪[2]大而散名曰平脉反得
沈濡而滑者是腎之乗心水之刻火爲賊邪大逆十
死不治[3]反得大而緩者是脾之乗心
子之扶母爲實邪雖病自愈反得絃細而長者是肝
之乗心母之歸子爲虚邪雖病易治反得浮[4]
濇而短者是肺之乗心金之陵火爲微邪雖病即差
心脉來累累如貫珠滑利再至曰平三至曰離經病
四至脫精五至死六至命盡手少隂脉
心脉急甚爲瘈瘲 微急爲心痛引背食不下緩甚爲
狂笑微緩爲伏梁在心下上下行時唾血大甚爲喉
介微大爲心痺引背善涙出小甚爲善噦微小爲消
癉滑甚爲善渴微滑爲心疝引臍少腹鳴濇甚爲瘖
微濇爲血溢維厥耳鳴巔疾手少隂氣絶則脉不通
少隂者心脉也心者脉之合也脉不通則血不流血
不流則髮色不澤故其面黒如漆柴者血先死壬篤
癸死水勝火也
心死藏浮之脉實如豆麻擊手按之益躁疾者死
    右素問鍼經張仲景

注釈
[1] ^ : 甲乙作累累
[2] ^ : 千金作浮大而洪
[3] ^ : 一本云日月年數至二忌壬癸
[4] ^ : 千金浮作微

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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