『選鍼三要集』杉山和一著⑬ ~江戸時代の鍼灸の教科書~

選鍼三要集跋

易に曰く、夫れ天の行くことは健かなり。君子以て自ら彊(つとめ)て息(や)まず。但だ天行を言ふときは其の一日一周にして明日一周なるを見る。重復の象の若し。至健に非れば能わずや。君子之に法て人欲を以て其の天徳の剛を害せず。則ち自ら彊て息まず。夫れ鍼は所作為(た)りと雖も伏羲初めて医道の一なり。此に明かなる者は其の道の君子なり。是を以て懈怠すること母(なか)れ。予、少年の時病有り、鍼を以て之を治す。又、中年に病有り、時に師入江先生鍼を伝ふ。三年にして自ら治す。其の後、人に刺して病を治すること数多なり。壮年に及て霊枢を聞く。其の理深ふして事広し。今刺す所の本朝の流は経絡を捨て病のみを尋ぬ。聖人の伝ふる所の道は廃れり。是を以て按ずるに学ぶ者は鍼せず、鍼する者は学ばず。世は末世にして人の気短く、如何にして是を起こさんや。僅に書を作りて不学に与ふ。譬へば管中天を見るが如しと雖も、然れども龍は一滴の水を以て世界を潤し、人は石火の微なるを以て大火と為す。是皆得る所有る故なり。此の書短しと雖も其の人を得ては則ち天下に広めんことも亦成つべし。動静其の本一気なり。一、二を生じ、二、三を生ず、十又一に帰す。是従(よ)り百千万に至りぬ。而して病は七情に発る。喜ぶときは心を傷り気散ず。怒るときは肝を傷り気逆す。憂ふるときは肺を傷り気聚る。思ふときは脾を傷り気結ぼふる。悲しむときは心包絡を傷り気凝る。驚くときは胆を傷り気乱る。恐るるときは腎を傷り気怯る。是は皆内より生ずる病なり。又、五傷有り。久しく行くときは筋を傷り、久しく立つときは骨を傷り、久しく坐すときは肉を傷り、久しく臥すときは気を傷り、久しく視るときは血を傷る。是皆為す所の害なり。風寒暑湿燥熱は外従り来る病なり。気血痰の三、是本として百病を発す。其の本を治するときは末治せずということ無し。是を能く弁へて要穴を考へ鍼を刺すべし。且、又心肝要なり。手に刺して心に刺さざる者有り。小人間居して不善を作すこと至らざる所無し。又曰く霜を屬(ふ)んで堅き氷至ると。善も亦然り。故に積善の家には必ず餘慶有り。積不善の家には必ず餘殃有り。是を以の故に其の心慎んで鍼を刺すべし。且、此の書は不学の者に教へ、且、盲人に諳んぜ使めんが為なり。

選鍼三要集跋畢

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