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『鍼灸医術の門』 柳谷素霊著

第九節 病証

 鍼灸医術の本質的なるものは「随証療法」、とさへ謂はれてゐる。この証は対症療法の症ではない。単なる症候群の総合を謂ふのではない、況んや、病名をいふのでは勿論ない。現代医学とても、病名を決定せる後、実際具体的なる投薬、手術、治療に際しては医師の経験と手練によつて載書以外、又は書を以つて伝ふべからざる現実の方法によつて、即ち、書籍を飛躍した、論理を超えた、いはば、直観的手法によつて処理してゐるのではあるまいかそれは、手当ての生命に連るものであり。生命の機に対応するからである。
 証とはこのやうに生命に根ざすものであり、治療の眼とするに足るものをいふ。「生命に直結する、生活体の現はす全体綜合的反応としての症候群中の主役」が証である。漢方医大塚敬節先生は「証とは単なる病状の綜合でなく病の理念的表現である、病者の症候群を『証』と考へると『証』の把握が愈々困難となる。『証』は撰択的であり、理念的である。写実的病状の羅列ではない、病状の最も大切なものゝ把握である」といわれてゐる。このやうに、治の為めに、その眼とする根本を活かす為めに、部分を捨象する理論であり、法則である。
 従つて古書には写実的羅列的な病状を記さずして、治療の眼目として把握されねばならぬ『証』を示してあるのである。従つて我々は『証』を決定することによつて治療方則が立つのである。 こゝに古法鍼灸の本質的なる真髄があるのである。
 脉外、脉証を按じて、主証を決定することも出来、治方を立てることも出来るのはこのやうな概念を持つ『証』に立脚して行ふからである。
 我々は証によつて、陰陽虚実寒熱内外を決定し、これを五臓六腑経絡経穴へ還元し治療出来るのであり、これによつて、主治穴の配合を必然的に理論的に決め、後は補瀉の手技を行えぱよいのである。証とはこのやうに主要なものである、詳細は本間祥白君の「鍼灸病証学」及余の「鍼灸経絡治療講座」に譲り、茲にはその一般を示すことゝする。

(一)五運主病、六気為病(素問玄機原病式による)

 五運主病は証によつて、その本を知ることの出来るもので、諸風掉眩は皆肝木に属し、諸痛痒瘡瘍は皆心火に属し、諸湿腫は皆脾土に属し、諸気月+賁鬱の病、痿は皆肺金に属し、諸寒収引は寒の用、冬寒すれば則ち拘縮し、これは皆腎水に属すとされてゐる。五行の主るところとさる。
 六気為病は諸暴強直支痛緛戻裏急筋縮は皆、風に属す、(足の厥陰風木は乃ち肝胆の気なるによる)諸病喘嘔吐酸暴注下迫転筋小便渾濁、腹脹大にして之を鼓けば鼓の如きもの、癰疽、瘍疹、瘤気、結核吐下霍乱、瞀鬱腫脹、鼻塞鼽衂血、溢血、泄淋悶、身熱悪寒戦慄、驚惑悲笑、譫妄、衂衊、血汚皆、熱に属す(手少陰君火の瞀乃ち真心小腸の気なるによるとす)
 諸痙強直、積飲痞隔、中満、霍乱、吐下、体重胕腫肉泥の如く、之を按じて起きざるは皆湿に属す(足太陰湿土乃ち脾胃の気なるによる)
 諸熱瞀ケイ暴かに瘖し冒昧し、躁擾狂越罵詈驚駭。胕腫疼痠、気逆衝上し慄れて神守を失ふが如く、嚏嘔、瘡瘍、喉痺、耳鳴及聾、嘔涌溢して食下らず、目昧くして明らかならず、暴りに注ぎて、目閏ケイ暴かに病み暴かに死す、皆火に属す(足少陽相火して熱、乃ち心包絡、三焦の気なるによる)
 諸澁枯涸乾勁皴掲皆燥に属す(手の陽明燥金なり乃ち肺と大腸との気なるによる)
 諸病上下出るところ、水液清冷澄徹、癥瘕癪疝痛堅痞、腹満急痛、下利清白、食し己つて飢へず、吐利腥穢、屈伸便ならず、厥逆禁固皆寒に属す(足太陽寒水は乃ち腎と膀胱の気なるによる)

(二)正経自病(難経四十九難)

 憂愁思慮は心を傷り、形寒飲冷は肺を傷り、恚怒気逆上りて下らざるは肝傷り、飲食労倦は脾を傷る、久坐湿地、強力入れば腎を傷る、これをもつて、傷らるゝの臓を知るを得べし。

(三)五邪所傷

 中風、風は木なり、肝を傷り、傷暑、暑は火なり心を傷る、飲食労倦、脾は四肢を主る脾を傷り、傷寒、寒は金気なり肺を傷り、中湿、湿は水なり、腎を傷る、霧雨蒸気の類即ち湿なり、腎を傷るとさる。
 これ等の邪が、五臓のどこを傷るかにより虚邪(後より来るもの)実邪(前より来るもの)賊邪(勝たざるところより来るもの)微邪(勝つところより来るもの)正邪(自ら病むもの)といふのである。
 今心病挙例により難経の示すところをのべやう。

第四図表 五邪挙心為例
心病知中風其色赤其病、身熱脇下満痛、其脉浮大而強
知傷暑悪臭其病、身熱煩心痛、其脉浮大而散
知飲食労倦当喜苦味也其病、身熱而体重嗜臥四肢不収、其脉浮大而緩
知傷寒当譫言妄語其病、身熱洒洒悪寒甚則喘咳、其脉浮大而濇
知中湿当喜汗出付加止其病、身熱而小腹痛足脛寒而逆、其脉沈濡而大

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