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『鍼灸医術の門』 柳谷素霊著

第十三節 補瀉の方法

 私は思ふてゐる、鍼灸は補瀉の術である。補瀉は鍼灸なる簡単な道具を精巧にする操作である。補は与へる、益す、加へる、救ふ、済ふ、実せしむ、興起生長さすとふことである。
 瀉は取る、奪ふ、減する、尅す、抑へる、殺す、減衰収蔵さすことである。
 湯液の汗吐下は瀉に属し、和養は補に属す、瀉は虚せしむることであり、補は実せしむることである。現代医学の強心剤投薬、滋血薬、栄養剤、興奮薬は補、瀉血切開切除、内臓外科は瀉であると見ることも出来る。補瀉は結局加減である。
(一)補の意味
 補は細胞組織の生命力の積極的自我顕現化を目的とした手技であり、正気(生活体伸張の源泉、エネルギー)を興起生長さすことである。正気の補益充実である。
(二)瀉の意味
 瀉は細胞組織の生命力自我顕現化遂行の障碍となる機構解消作用を目的とした手技である邪気(瘀血、悪血液、自家中毒、異物欝積、旺気)の勢力を減衰収蔵せしめることである。邪気を排除することである。
 かくして、人間の全生機を振起し、原気を興起し、病的なるものを減衰し、健康体たらしむるが目的なのである。
 鍼下熱を覚えるは気の実であり補となる、鍼下清涼を覚えるのは気の虚であり瀉となる。
 これは理論だけの問題ではない、実際両腕のうち一腕に鍼し、他腕に鍼しないで掌中の発汗の有無を見れぱすぐ実験出来る、鍼刺した方の掌は汗ばみ、刺さぬ掌は汗ばまぬ。
 婦人腰脚の冷えるもので、腎虚証に際し腎の補である、復溜穴(金性穴)に鍼を補に立て、気来らざれば、催気し、気来れぱ押手刺手を離して見る。初めうごかなかつた鍼がビンビンと自動するを見る、ビンビンとうごけば、六部定位の脉の虚がとれて来る、病人は腰脚の温かとなつたと云ふであらう、ちつとも不思議なことではない、実験してみれば分ることである。
 補は加へることである、不及、不足、虚を対象とするからである。
 瀉は減らすことである、有餘、緊堅実を対象とするからである。
 加へるには、加はるものゝ容る余地がなくてはならぬ、一杯入つてゐるところには入りやうがない。従つて、虚の状態にして置いて入れる方が理論にかなふ。息を吸ひ込めば力が入る、充実する、息を出せば力が抜ける虚弱となる、手足を緊張させれば力が入る、手足をダラリとさせれば力が抜ける。従つて、補には息を呼させ、力を抜かせて不足、虚の有り様にして刺すが、理にかなふ。
 瀉は息を吸はせ、四肢に力を入れさせて有餘充実の状態にして鍼刺するのが理の当然である。
 鍼を皮膚に突き刺すことは一つの傷病である。微かなりとも、やゝ大なりとも、傷病には変りない、生きものだから、切れぱ血が出る、穴をあければ体液の出るのはいふまでもない。泄すが瀉である、淋巴液や血の出たのをそのまゝにして置くのが減になる、瀉になる、従つて鍼痕を閉ぢてはならぬ訳である。この反対の理念である補には手つとり早く閉ぢねばならぬ。こゝに、開闔の補瀉の法ありと説くは不思義ではない。三稜鍼、鈹鍼、鑱鍼は大瀉の鍼であり毫鍼は補鍼であることも分明であらう、太鍼が瀉になり、微鍼が補になる、それもあたりまへである。同一の太さの鍼を使ふ場合、鍼口を大きくして泄れ易しくするのが瀉となり、泄らさざるやうにして、内に気を集めるのが補になるのも当然、こゝに揺動の補瀉が立てられた訳である。
 形気の虚。羸気弱癢麻は元気がないからである。これを補ふは当然、豊肥堅硬疼痛は充実でこれを瀉するは当然である。
 老人貴人は形気弱きが故に補意に、壮人賎者は形気充実するが故に瀉意に立てるが当然である。
 陽分は瀉すること多く、陰分は補すること多い。が、陽中の陰は先づ補し後に瀉す(金鍼賦八法論に曰く)陰中の陽は先づ瀉し後に補すの概念の出るも発展的手法の至るところである。(金鍼賦八法論に曰く)
 併しながら、補といふも、瀉といふも相手のあることである。一杯の酒でも真に酔つぱらう者があると思へば、一升瓶を二三本もひつころがして猶ほ平然たる酒豪家がゐる。一、二合で丁度よい人もゐる、補瀉もその通りである。薬剤の量と同じだ、従つて、「蔵珍要編」には援補、 緩引補、留補、極補、徐補、急瀉、暫瀉、漸瀉、浅撚補瀉、深撚補瀉が出来たのは理の当然である、温鍼とて鍼を口中に温めて刺すとか鍼柄に施灸すれぱ補となる、身体に合ふからである。含まぎるものは劇しくあたる瀉となるのである。(これ等の詳細は別著に譲る)
 鍼を体中に永く入れて置くと補となる、体中にあまり永く留めないと瀉となる、昔は補に「五常上真六甲玄霊気付至陰百邪閉理」と三扁念じ、瀉に「帝扶天形護命成霊」と三扁踊するといふ。鍼医の神気を鎮めるといふぱかりではない、異物としての鍼が体中に入れぱ生活体は先づ排除融化現象を起す。猶ほ留まれぱ、被包現象を起す為めの細胞がその部に集るといふ、これは東大教授緒方、三田村両博士の実験的研究報告である。呪文のよつて来る実相が明白になつたやうな気がするではないか、次に補瀉の一般手法をのべやう。
 補は用鍼を温める、経絡に従つて指腹でよくなでる、穴を厭按する、爪を以つて穴処を押へる、気の来るを候ふ、経に従ふて鍼を随にふせて、呼に従つて刺す、気得るまで刺入する、気来らざれば催気の法を行ふ、補し終つたら、吸に従つて徐々に抜き上げ、抜除せぱ直ちに鍼痕を 操み閉ぢるのである。この際(刺入の間)五常云々の呪文を誦す、瀉は用鍼を温めない。経に逆になでる、穴を厭按し、爪を以つて押へる、気の来るを候ふ、経に迎つて鍼を伏せて、吸に従つて刺入す、気の催すを候ふ、気来らぱ患人をして呼さしめ、呼に従つて抜く、鍼痕を成るべく開くやうにし、鍼痕を閉ぢない、邪気をもらすのである。刺抜の間帝扶云々その呪文を諦するのである。
 此間、脉を按じ、虚及び実が平となれば補瀉適正に行はれてゐる証拠なのである。
 最後に広狭鍼灸神倶集「正邪相争ふの時に当つて針肌間の中に入つて宗気に触るゝときは宗気いよいよこゝに聚り憤激して力を出し、これを防ぐ故に邪気遂に敗走するなり、然らぱ微鍼の功は直ちに、これが邪気駆逐して去らしむるものに非ず、宗気の激発して針下に聚め、それが力増して邪気を駆逐せしむれば宗気の為には援兵加勢ともいふべきなり」を紹介して諸士の味読に供そう、鍼とは実にかくの如きものである。
 次に灸であるが、要するに、温々冬日たる気持よき灸熱を感ぜしめるが補、猛烈夏日を思はせるやうな激烈なる灸熱を感ぜしむるが瀉となる。多穴は少穴に比して瀉、少壮は多壮よりも補、一穴を以つていへば、小艾炷小壮は 補、大艾炷多壮は瀉となる、これ等は組合せて、病人と病証と病勢によつて決めべきである。次に鍼灸の補瀉を表示する。
第十一図表 鍼灸補瀉の表
鍼補瀉
陰陽陰病は補陽病は瀉す
呼吸呼息に刺入し吸息に抜く吸息に刺し、呼息に抜く
鍼尖鍼を温めて用ゆ鍼を温めずに用ゆ
提按穴所を爪で強く押へて刺入す穴を強圧せず
開闔抜鍼後直ちに鍼痕をよく閉ずる閉ぢずそのまゝにして置く
迎随経に従つて斜鍼す経に逆つて斜鍼す
用捨無痛なるやう刺鍼多少痛みてよし
出内徐刺徐抜正気を集める速刺速抜邪気をもらす
過不及病人の気根により弱きに弱く用ゆ強きに強く用ゆ
弾爪穴処を爪で弾き気血を呼びて刺すそのまゝ刺す
揺動刺入せる鍼を震はせて催気す動揺大いにし穴を大にし邪気をもらす
子母虚せる経の母を補ふ実する経の子を瀉す
虚実麻痺、痒は虚なりこれに用ふ、按へて気持よきは虚なり痛腫は実なりこれに用ふ、按へて痛むは実なり
方円円は補なり、移なり、宣なり、補気なり(子母の補瀉の意味もある)方は迎へなり、盛気を瀉すなり
寒熱寒は補す熱は発散、瀉す
浅深浅く深く
太細細く太く

 
灸補瀉 点火燃焼自然たらしむ温々冬日の如き熱感を与へるやうにする。
良質の艾、柔かに撮み、皮膚に軽くつけ、乾燥せしむ燃焼した灰の上から施灸続行。
小炷、炷を高く底面を狭くす。
点火燃焼まさに皮膚に達せん時風を送り早く焼失せしむ。
猛烈夏日を思はすやうに劇しい熱感を与へるやうにする。
良質でなくてよし硬く艾を撮む
皮膚に密着するやうに貼ずる、燃焼した灰を一々除いて施灸する。
太炷、炷のたけ低く、底面を広く施灸。

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